東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)73号 判決
原告がその主張の登録第四六〇五四四号商標の商標権者であるところ、被告から原告主張の右商標登録無効の審判請求(昭和三四年審判第四九四号)が提起され、その結果原告主張の日その主張のとおりの審決があり、その主張の日その審決書謄本が原告に送達されたこと、および右審決の要旨が原告主張のとおりのものであることは、当事者間に争がない。
被告が審決引用の登録第一九一七二二号商標権を一九五三年一月一六日に前権利者であるバイク・グルデンウエルケ・ヘーミツシエ・ファブリツク・アクチエンゲゼルシヤフトから譲渡を受け、その主張の再登録を得たものであることは原告の認めるところであるから、被告は引用商標につきドイツ人工業所有権特別措置令第二〇条第一項但書第一号に定める商標権者の承継人であるというべく、原告の前記商標登録が同条第一項に違反してされたことを理由として同条第六項にもとづくその登録無効の審判を求め得べき利害関係人に該当することは明らかである。
成立に争のない甲第三号証(商標公報)によれば、被告の引用商標は、別紙表示のとおり、太い丸枠内にこれと同じ太さにやゝ図案化した書体で「BYK」の欧文字を、中央のYの字は特に大きく表わし、左横書して成るものであることが明らかである。ところで、右商標の構成中、丸枠は輪郭として特徴のないものであるから、該商標中特に人の印象をひくものは、右輪郭内に顕著に表出され、格別難読のものとも認められない「BYK」の欧文字であるというべく、これに証人ラインハルト・アインゼルおよび上田宗男の各証言を参酌すれば、右商標からは「ピーク」の称呼が生ずるものと認めるのが相当である。
原告は、引用商標は図形商標であつて、これを分離解体した一部分から称呼を生ずるとすることは不当であり、特にそのように呼称するためには該称呼が周知されているか、これを商標中に附記する必要がある、と主張するが、右商標中の丸輪郭はきわめて特徴のないものであり、「BYK」の文字部分がその要部であると認むべきこと、前記のとおりであるから、該部分から右商標の称呼が生ずることは、むしろ自然であると考うべきである。そして、右商標の構成中、丸枠はどこまでも輪郭であつて、これをローマ字のOと読むことは無理であり、また「BYK」の三文字の中間には句読点がないからこれを「ビー、ワイ、ケー」と読み得ないこともないが、続けて「ビーク」と読むほうが、むしろ普通の読み方であると思われる。
引用商標の前権利者が「バイク・グルデンウエルケ・ヘーミツシエ・フアブリツク・アクチエンゲゼルシヤフト」と表示されていたことも、該商標の日本における当初の登録出願代理人が誤まつてそう表示したものであつて、正しくは「ビイク・グルデンウエルケ……」であることは、前記両証人の証言を併せ考えることによつて明らかであるから、右商標から「ビイク」の称呼が生ずると認定することの妨げとはならない。原告の主張するように外国商社の商号は二語連結して呼ぶことを通例とするというようなことは、これを認むべき何らの資料がないばかりでなく、仮にそうであつたとしても右商標には「BYK」の三文字を含むのみであるから、これから通常の読み方にしたがつて「ビイク」の称呼の生ずることは、当然というべきである。
一方原告の登録商標は「BIC」と横書して成り、これも「ビー、アイ、シー」と読み得ないことはないが、「ビツク」と読むほうが自然であるというべきである。成立に争のない甲第四号証(商標公報)によれば、原告は右登録商標の連合商標として、やゝ特異の書体で「ビツク」と左横書して成る商標につき登録出願(商標出願公告昭三四―八七一二)をしたことが認められるが、この事実によれば、原告自ら前記登録商標から「ビツク」の称呼を生ずることを認識しているものといわなくてはならない。NHKその他原告の引用する他の事例は本件とは必ずしも事情を同じくしないので、右登録商標から「ビツク」の称呼が生ずることを否定する資料とすることはできない。
原告の登録商標は旧第一八類理化学、医術、測定、写真、教育用の器械、器具、眼鏡及び算数器の類並にその各部を指定商品とするものであり、他方被告の引用商標も旧第一八類印画紙及び其の他写真、理化学、医術、測定、教育用の器械、器具、眼鏡及び算数器の類並びにその各部を指定商品とするものであることは前記甲第三号証および成立に争のない同第五号証(商標原簿謄本)により明らかであるから、両商標はその指定商品においても、同一または類似であることは、多く言う必要がない。原告は、現実に両者の使用される商品の異なることを主張しているが、登録商標はその指定商品につき専用権を得させるものであるから、指定商品が同一または類似である以上、両者はその使用商品において同一または類似のそしりをまぬがれないというべきである。
被告の引用商標からは「ビーク」の称呼が生ずるのに対し、原告の登録商標は「ビツク」と呼称されること、前認定のとおりであつて、両者は称呼類似であり、したがつて類似の商標というべきである。原告は、原告の登録商標は商品に刻印し、あるいは添付して使用するので、称呼類似はとるに足らない、と主張するが、称呼による使用は商標の重要な機能に属し、これを無視して商標の類否を決することは相当でない。
本件審決が本件両商標をもつて称呼上相類似する商標と認め、原告の登録商標の指定商品も被告の引用商標のそれに包含されるから、前者の登録は後者との関係においてドイツ人工業所有権特別措置令第二〇条第一項の規定に違反してなされたものと判断したことは、相当であり、引用商標の太い円輪郭を二重の円輪と誤認したようなことも、その結論には影響がないと認むべきであるから、これをもつて審決を取り消すべき理由とするに足りないものといわなくてはならない。
〔編註〕 本件に関する商標は左のとおりである。
原告の登録商標
<省略>
被告の引用商標
<省略>